ピアノを習い始めて数年が経ち、少し慣れてきた生徒のための発表会用の選曲。これ、意外と難しいと思ったことはありませんか?
何しろ生徒たちは初心者を脱しつつあり、みなそれなりにプライドを持っています。
とはいえまだまだ講師目線では安定しない部分もあってついつい無難な選曲をしてしまい、気付いたら毎年のプログラムに同じような曲目が並ぶことに‥。
できればもう少しバラエティを持たせたいもの。他のお教室との合同発表会でも被らない曲であればベストですね。
本記事が、「他のピアノの先生と被らない発表会曲探し」に悩むあなたの選曲のお手伝いができれば幸いです。
目次
【ピアノ発表会】初中級者向きの選曲をするときの注意
- 年齢や性別にふさわしいタイトル
- いわゆる「発表会定番曲」ばかりにならないようにする
- 作曲年代を意識する
まず気をつかうのはタイトル。
初中級のピアノ学習者の多くは小学生です。この年代は自意識の育つ時期。
自分と他人との距離感や集団の中での自身の立ち位置などを少しずつ意識し始める子が少なくありません。
そんな彼ら彼女らのプライドのためにも「ちょうちょの〜」などのような、幼いタイトルの曲は特別な場合を除いて避けることにしています。
いわゆる「ピアノ発表会定番曲」というものがあります。初中級者レベルでは、この手の定番曲が豊富。
元気で明るくてわかりやすい、みんなが知っている有名曲は発表会の人気者。本人にも保護者にも喜ばれるため、私もよく発表会曲に選びます。
別記事で初中級レベルの発表会曲について詳しく解説しています。よろしければご参考に(^○^)
【ピアノ発表会】女の子に人気の初中級レベル定番曲10選を解説
ただし、この手の有名曲ばかりが並ぶと、演奏内容がよくてもお客さんに与える印象は薄くなります。
初中級者の発表会曲がどれも同じ印象になりがちなのは、いわゆる「定番曲」が比較的ロマン派にかたまっているためです。
それゆえ、選曲の際にはできるだけ作曲された年代に幅を持たせるとバラエティに富んだ印象に。
邦人の作品を積極的に取り入れたり、まだあまり一般に知られていない現代の作曲家の作品を選んだりしてみましょう。
力のある子には、J.S.バッハなどバロック期の曲に挑戦させたりするのも手です。
【ピアノ発表会】他と被らない初中級者向け曲集5選
現役ピアノ講師が選んだ初中級者向きのピアノ発表会用曲集。「他のお教室と被りにくい」という観点から選んだおすすめは以下の5冊です。
全体的な難易度が低めと思われる順番に並べました。
初中級者向き発表会用ピアノ曲集
- 花色パレット(池田奈生子)
- 音楽会ってステキ!(キャロリン・ミラー)
- DENNIS ALEXANDER'S FAVORITE SOLOS BOOK 2
- ピアノコスモス1
- ピアノのたからばこ[ラピスラズリ]
【ピアノ発表会】他と被らない初中級者向け曲集の紹介とおすすめ曲
以下、初中級者向きでバラエティに富んだ発表会プログラムとなるような曲集をご紹介します。
また一冊ごとに、このレベルの学習者に特におすすめの曲もご紹介。一冊の楽譜の中には、易しいものからかなり難しい曲も含まれる場合があるからです。
花色パレット
- 曲集名:花色パレット
- 作曲者:池田奈生子
- 発行:全音楽譜出版社
- 頁数:45ページ
アメリカの出版社「Willis Music Company」初の日本人作曲家として契約を結び、近年日本でも注目を集める池田奈生子氏。
初中級者向け曲集の「花色パレット」は、『美しい花々が香る夢の庭』をイメージして編集された発表会向きの曲集です。
それぞれの花々の持つイメージを表した曲たちは華やかで情緒たっぷり。また『”日本の情景と響き”を表現した作品(作曲者)』も収められています。
16曲全てが様々なシーンで活躍できる、管理人「超おすすめ楽譜」の筆頭です。
ミスティ・レイン
音もなく降る霧雨をイメージした作品。小さな変奏曲になっており、4拍子は雨、3拍子では『霧雨の向こう側の日差しや虹をイメージ』しているとのこと。
水彩画のような淡く優しい風景の描写です。タッチの柔らかい生徒さん向き。
紫陽花タイトルは「紫陽花」ですが英題は「Soft Rain」。六月のしとしと雨の中に咲く、紫陽花の重なり合う花弁のグラデーションをイメージ。
ニ長調ですので「ミスティ・レイン」よりは明るい音が合いそう。右手の歌の下、左手の音型は水滴が落ちる様をイメージするとぴったりです。
万華鏡くるくると回る万華鏡の、繊細でミステリアスな雰囲気を表した作品。「和」の雰囲気が他にはない魅力です。
中間部の三度のメロディ奏はこのレベルとしては少々難しいかも。全体的に、硬くキラキラとした音色が欲しいところです。
夢の庭で学習者向け別ブログ「鍵盤の旅人」の以下の記事をご参照ください↓
ピアノ発表会におすすめ!大人向きオシャレなピアノ曲 初中級レベル10選
音楽会ってステキ!
- 曲集名:音楽会ってステキ!(15 Lyrical Piano Solos)
- 作曲者:キャロリン・ミラー(Carolyn Miller)
- 発行:全音楽譜出版社
- 頁数:47ページ
音楽教師・作曲家として40年以上のキャリアを持つキャロリン・ミラーの初中級向き発表会用曲集。
シンシナティ大学で音楽教育を、ザヴィエル大学で初等教育の修士号を取得しているという経歴が示すように、多くの作品には教育的配慮が感じられます。
冒頭に『生徒の皆さんの感性が豊かにそだつことを願って作曲しました』という作曲者の言葉が。
「簡単に弾ける」ことを目指して作曲されているため学習者の負担は最小限。それでいて叙情的な響きを楽しみながら演奏することができます。
雨に踊れば原題"Dancing in the Rain"。誰でも思い出すあの名画『雨に唄えば』の主題曲Singin' in the Rain"を思い出すオシャレな曲。
三拍子でメロディも違いますが、同じヘ長調ですしそこはかとないリスペクトを感じます。陽気で快活、それでいてほのかな哀愁を感じさせて、大人の生徒さんにぴったり。
タンゴ・エスパニョール"Tango Español"は「スペインのタンゴ」。そのタイトル通り、タンゴのリズムに乗せた情熱的なスペインの歌が魅力的です。
「軽くペダルをふんで」と指示がありますが、左手のリズムに合わせて軽やかにペダルを入れるのはなかなかのテクが必要。
また左手スタッカートで右手がスラーという場面が多いので、見た目ほど易しくはありません。うまく決まればカッコよく目立ちます!
想い出原題"Remembrance"。左手分散和音の伴奏に乗せて、右手でエモーショナルなメロディが紡がれ、変奏しながら盛り上がっていきます。
メロディックな部分と中間部との差をつけて、メリハリのある演奏を目指すと良さそう。7連符は急がないように、むしろ悠然と間をとってみては。
タイトルからしてこの曲もやや大人向き。情感豊かな演奏をする生徒さんにおすすめです。
DENNIS ALEXANDER'S FAVORITE SOLOS BOOK 2
- 曲集名:DENNIS ALEXANDER'S FAVORITE SOLOS BOOK 2
- 作曲者:D.アレクサンダー
- 発行:Alfred
- 頁数:24ページ
アメリカの作曲家、デニス・アレクサンダーの作品群は、簡潔で弾きやすく、それでいてゴージャスな音使いで本国では大人気。
演奏会などで使える各レベル向きの曲集がいくつも発売され、多くの学習者に親しまれている様子が伺えます。
我が国でも最近全音楽譜出版社などから曲集が発売され、知る人ぞ知る発表会ナンバーになりつつあるところ。
今回はあえて輸入版の楽譜からおすすめするのがこちら。収録曲は8曲のみと頁数は少ないですが、使える曲ばかりです。
Valse Romantiqueタイトル通りのロマンティックなスローワルツ。cantabileの指示があるので舞曲というより性格的小品といった趣の曲です。
中間部の、転調しながら盛り上がっていく部分が印象的。31小節目でテーマが戻ってきた後は、特にテンポの変化を意識しつつ悠然と演奏するのがおすすめです。
Newport Rock「ニューポート」とはアメリカ合衆国の北東部に位置する港湾都市。保養地や別荘地として名高い観光地でもあります。
冒頭にrobusto(屈強に・たくましく)とあるのは海軍にゆかりの土地だからでしょうか。
アメリカ的な雰囲気を表すべく、ここはややスイングしたいところ。楽譜には指示はありませんが、8分音符の連なりはイーブンではなく長短の変化をつけて、ゴキゲンな感じに弾くのがおすすめ。
NotturnoNotturnoはノクターン(夜想曲)。nocturneではなくわざわざイタリア語で表しているところに作曲者のこだわりを感じます。
ペダルが濁らないように注意しつつオシャレな音の連なりをよく聴きながら演奏しましょう。13小節以降の指使いには注意が必要です。
ピアノコスモス1
- 曲集名:ピアノコスモス1
- 作曲者:ハイドン、マイカパル、湯山昭ほか
- 発行:全音楽譜出版社
- 頁数:87ページ
1978年初版発行の古い曲集ですが、今でもよくお世話になる良楽譜です。
他の「名曲集」などにあまり収録されることのない、ロシア(旧ソビエト)の作品が多く収められていて、「他と被らない」という点では特にすすめ。
「テクニックと音楽性が同時に学べる」というサブタイトルの通り、発表会という舞台でこのレベルの生徒に演奏させれば学べるものは多いと思われます。
収められた作品の年代がヘンデルから湯山昭までバラエティに富んでいるのも魅力の一つ。ピアノの先生は一冊持っていてもソンはないと断言できます(^○^)
ゆるやかなワルツゲディケ(A.Gedike,1877-1957)作曲"Slow Waltz"。ゲティケはロシアのピアニスト、オルガニスト、作曲家。
情緒あふれるロマンティックなワルツです。音と音の間に充分な余白を取りましょう。大人っぽい生徒さんにおすすめ。
メヌエットハイドンらしい、明るく快活なメヌエット。左手にも出てくる16分音符は、重たくならないように軽やかに弾きたいものです。
ロマン派の作品の多い発表会プログラムの中に、たまにこのような古典派の曲が混じるのは新鮮。端正な雰囲気の演奏をする人におすすめの作品です。
ワルツ湯山昭(1932-)作曲。もともとピアノ曲集「こどもの国」に収録されていたものです。
「ゆるやかなワルツ」とは正反対の軽快で楽しいワルツですが、中間部はがらりと印象が変わってドラマチックな雰囲気に。
『曲の前半ではワルツのゆれうごくリズムを、後半ではシンコペーションによってひきおこされる2拍目のアクセントに注意してください(「こどもの国」演奏のてびきより)』。
アクロバット以下の記事をご参照下さい↓
初中級レベルで目立つ曲10選|難しく聴こえるおすすめ曲をピアノ講師が解説!
ピアノのたからばこ[ラピスラズリ]
- 曲集名:ピアノのたからばこ[ラピスラズリ]
- 作曲者:太田桜子、ボーモン、服部公一ほか
- 発行:音楽之友社
- 頁数:95ページ
2023年5月に第1刷が発行されたばかりの新しい曲集シリーズです。ピアノの先生方の声をもとに、子どもたちに人気の曲を選曲したとのこと。
「ピアノのたからばこ」というネーミングセンスは抜群。いかにもキラキラした曲たちが詰まっていそう!
たからばこは[ラピスラズリ][トパーズ][オパール]の3種類。古今東西の発表会向きの作品がたっぷりと集められています。
今回ご紹介するのは[ラピスラズリ ]。理由は、福耳の持つ他の発表会用曲集と曲のかぶりが一番少なかったため(^○^)
他の名曲集などには収められていない作品も多く、難易度もバラエティに富んでいるので様々なレベルの生徒に使うことができます。
初中級者におすすめなのは以下の作品です。
お月さまの子守唄ガラス細工のような透明感のある、素敵な子守唄。中間部では、あのドビュッシー の「月の光」を思いだすような柔らかさも感じます。
個人的にタイトルに異議ありヽ(・∀・) 英題は「A Lallaby from the Moon」なので「お月さま」ではなく普通に「月の子守唄」の方が年齢の高い生徒に曲出ししやすいのですが‥。
ともあれ、新鮮な魅力に満ちた一曲です。
タランテラ「タランテラ」は2曲収められています。ツィルヒャー(P.Zilcher,1855-1943)とボーモン(P.Beaumont)のもの。
どちらもおすすめですがツィルヒャーの方が易しく軽快な雰囲気。ボーモンのタランテラはそこそこ難しく、手の大きな生徒向きです。
かなり長さもありカッコよく終わるので、発表会のプログラム第一部のトリなどにぴったり。力強く締めくくってもらいましょう(^○^)
月夜の忍者4分の5拍子、しかもそのほとんどがユニゾンでできているというユニークな曲。「月夜の忍者」という、イメージを掻き立てるタイトルも目を引きます。
この曲はいくつかのストーリー仕立てになっている模様。密命を背負った忍者が一つひとつのミッションを達成していくとき、そこに様々なドラマが生まれます。
生徒さんと一緒にそれぞれの情景をイメージしてみましょう。
忍者らしく密やかに、強弱の変化と転調を意識してミステリアスな雰囲気を醸し出したいもの。ぜひ男の子に弾かせたい曲でもあります。
まとめ
初中級のピアノ学習者におすすめの発表会向け楽譜5選は以下の通りです。
- 花色パレット(池田奈生子)
- 音楽会ってステキ!(キャロリン・ミラー)
- DENNIS ALEXANDER'S FAVORITE SOLOS BOOK 2
- ピアノコスモス1
- ピアノのたからばこ[ラピスラズリ]
初中級クラスのピアノ学習者ともなれば、弾ける曲の範囲は初心者だった頃と比べて格段に広がります。
初中級レベルのピアノ学習者は、まったくの初心者よりは弾けるものの、まだモーツァルトなどの大作曲家の作品には今ひとつ届かない生徒も多いもの。
その穴を埋めるべく、近年では新しい曲集の出版が盛んです。
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